「捜査関係事項照会書」には「回答義務がある」-Tカード会員情報の提供に関する報道への違和感

法と制度

捜査関係事項照会書に関する報道

Tカードを運営しているカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が警察の要請に応じ、顧客の個人情報を警察に提供していたことが一時話題になりました。変化の早いこのご時勢、もはや旧聞という感も強いのですが、そこでの報道に感じた違和感について書きます。

CCCが顧客の情報を、裁判官の発する令状ではなく捜査機関の内部手続きだけで発行できる捜査関係事項照会書による情報提供の要請に応じて提供していた。さらにそうした提供の事実がTカードの利用者に明示されていなかった。これが本件の概要です。このような形での個人情報の提供やTカード運営会社の対応の適否などに関し、様々な議論が呈されました。

本稿の視点は全く別です。一連の報道で有名になった「捜査関係事項照会書」に対するメディアの報道のあり方がテーマです。2月4日付の朝日新聞朝刊の記事が契機でした。そこでは捜査関係事項照会書を、「刑事訴訟法の規定に基づき求められた側は回答義務があるとされるが、拒否しても罰則はない」と説明しています。他のメディアでも捜査関係事項照会書の説明に関しては、ほぼ同様の内容でした。

記事から受ける違和感

たとえ罰則がなくとも法律上の義務であるなら、その義務に従って個人情報を警察に提供すること自体は非難されるべきではないのではないか。ただ、事前に利用者にその旨を周知していなかったことは事業の運営者として不適切だった。報道に接していると、このように思えてきます。実際私も、一市民としてはそのように感じています(報道とは無関係に、です)。

同時に、「何か変だな、この記事は…」と私の感覚が告げます。気になったのは、「回答義務があるとされる」です。「回答義務がある」であれば分かり易いのですが、「される」って一体どういう意味なのでしょう。誰かがそういっている、ということなのでしょうか。とすれば誰が。

回答義務があると主張する主体が示されていないわけです。「刑事訴訟法の規定に基づき」と書かれています。捜査関係事項照会書は法律に基づく行為ということです。権利や義務に関する法律の規定はとても精緻に構成されているはずです。であるはずなのに「される」という主体不明の言葉、これが私の違和感の原因です。

刑事訴訟法の条文では

そこで調べてみることにしました。まずは刑事訴訟法です。捜査関係事項照会の根拠と思しき第197条第2項では、「捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる」と書かれています。これだけです。当たり前ですが「回答義務がある」とか「回答義務があるとされる」なんて書かれていません。

法律で義務として規定される場合の一般的な書き方である「しなければならない」とも書かれていません。例えば、「捜査について照会され必要な事項の報告を求められた公務所又は公私の団体は、(これに)回答しなければならない」と書かれていれば、法律解釈上の違和感は全く覚えないでしょう。間違いなく法律上の義務と思うはずです。

しかし実際には、捜査する側にとっての「できる」ことが書かれているだけです。ですから、その通りにしか解せないのではないか。さすがにこの条文で、照会された側が回答義務を負うと書かれているとはいえないのではないか(もちろん、義務を負わないと書かれているわけでもありませんが)、そう思うわけです。捜査関係事項照会書に関する新聞の説明は全く解せません。

ちなみに同じ刑事訴訟法の第218条第1項では、「(前略)犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる(後略)」と書かれています。逮捕状とか差押状とかの裁判官の発する令状がなければ逮捕や差押えができない。逆に令状があればできる。そう、この条文に対するこの解釈なら私の常識感覚によく合います。

警察庁の通達

何かあるはず、そう思ってWebを探しまわりました。見つけたのが「捜査関係事項照会書の適正な運用について(通達)」と題する文書です。警察庁刑事局刑事企画課長から全国の警察組織に宛てた文書で、文書番号も付されています。

この文書では刑事訴訟法第197条第2項を引用しつつ、「当該公務所等は報告することが国の重大な利益を害する場合を除いては、当該照会に対する回答を拒否できないものと解される」と記しています。ここでも「解される」、要は「される」表現です。誰がそう解しているのか。少なくとも警察庁ではありませんよね。かといって「解される」ことの根拠や出典の記載はありません。

捜査関係事項照会書への「回答を拒否できない」と解釈された方が警察にとっては望ましいでしょう。そうなった方が捜査の上で必要となる情報の収集がスムーズに行えるはずですから。この望ましい解釈を広めつつも、解釈に異議が差し挟まれた場合には(現に私は違和感を覚えたわけです)、法律解釈の説明責任を負わないようにしている。そのように感じるわけです。

報道のあり方

通達は捜査関係事項照会書の発行主体である警察組織の元締めたる警察庁が発している文書です。警察が行う捜査関係事項照会書に関する説明は、当然この書き振りに沿うものとなるでしょう。そして、この「回答を拒否できない」解釈の流布は様々な機会を通じてなされているはずです。

朝日新聞は何を基に捜査関係事項照会書は「回答義務があるとされる」と書いたのか。私にとって知る由もありませんが、警察庁の通達に書かれた「回答を拒否できないものと解される」という表現、解釈が、巡り巡って反映された結果なのではと思えてなりません。

報道機関として刑事訴訟法の条文や関連する判例を検討した上で「回答義務がある」と判断しそう書くのであれば、それはもちろんアリです。そうではなく、流布されているであろう「回答を拒否できない」解釈に依拠し、それ以上の特段の検討なく「回答義務があるとされる」と書いたのであれば、報道姿勢として安易でありミスリーディングではないかと思う次第です。ことは国民の義務に関するのですから。

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