自由への長い道 ネルソン・マンデラ自伝

南アフリカ、というか世界の英雄の自伝です。アパルトヘイトと闘い、27年間を獄で過ごした後に南アフリカの大統領となった男、それがネルソン・マンデラ。彼の生まれてからこれまでの詳細な歩み、それが本書の内容となります。

1960年代、ヨーロッパの植民地であったアフリカの国々は次々と独立を果たしていきます。そうした国々では、独立に際して白人入植者は財産を没収され、若しくは放棄せざるを得なくなった後に国外に脱出するというのが常でした。それも暴力と混乱の中で。その結果が、これまで機能していたインフラや行政機構の崩壊と白人の後を継いだ黒人新政権の腐敗でした。国家が国家として機能しない現実が待っていたのです。

南アフリカは、歴史的経緯も、そこで黒人多数層が曝されてきた現実も、これらの新興独立国とは異なります。より過酷であったといっていいでしょう。そんな南アフリカでの黒人多数層による支配の確立、これは一種の革命です。それを革命とせずに平和的な政権移行プロセスとして実現させる、この難事をネルソン・マンデラは主導しました。私がネルソン・マンデラに惹かれるのは、まさにこの事実故です。

何故そのようなことが可能だったのか、その一端が解き明かされることを期待して本書を手にしました。ストーリー展開は大変に面白くい刺激的。誕生から学業を修め弁護士となるまで、その過程で政治的な運動に傾倒していく様、さらには逮捕、裁判、長い獄中生活。ただ、私が期待した獄中の最後期、白人政府との交渉、釈放、選挙を経ての黒人多数派による政権の樹立までの記述は多くはないのです。

何があったかは書かれています。しかし、何故それが可能となったのか、その問いに対する答えは見出せません。白人政権との交渉の背後にあったことやマンデラ自身の心にあったであろう葛藤に対する掘り下げは、深くありませんでした。そんな感想を抱きながらも、ふと気付いたのです。原著の出版は1994年、マンデラが大統領になった年です。彼にとっては、まさにこれからが真の闘いの時だったのではないでしょうか。

そう考えるとこの本は、これからの闘いに備えるべく周到に計算された内容となっているはずです。その前提で読むべき本ということなのでしょう。もちろん、だからといってこの本の価値が減じることのないことは、いい添えておきます。

(注) 本内容は2012年10月1日に別のサイトに公開したものを一部修正の上で再公開したのもです。

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