著者:保坂 三四郎
出版社:中央公論新社
発売日:2023年6月21日
本書は、ロシアによるウクライナ侵攻以降に多く出版された、ロシアやウクライナの状況を解説する本の一つである。が、他の類書とは若干様相を異にし、ロシアの国家保安体制に焦点を当てる。
ロシア連邦保安庁、時にはロシア連邦保安局とも訳出されるが、これの英文表記の略称がFSBであり、副題にもあるとおりFSB体制とはFSBが国家運営に深く関わり影響を与える体制ことをいう。本書では、このようなロシアの国家保安体制がロシア革命以降の共産主義ソビエトの中でどのように構築され、その系譜がソ連邦の崩壊を経て現在のロシアのFSBにどのように引き継がれてきているのかを、歴史的な背景及び経緯、さらにはそこに携わって主要な役割を果たした具体的な人名をあげて解説している。
さらに、FSBのような国家保安機関がロシア国内だけでなくロシア国外においても様々な活動を行っている実態やその方法に関しても言及がなされている。そうした方法を採ることによって、ロシアに有利な社会状況へと諸外国の世論を誘導する。日本のロシア専門家といわれる人々、具体的には元外務省の佐藤優氏や国会議員である鈴木宗男氏によるロシアのウクライナ侵攻以降になされた言動が、こうした活動の成果の具体例として示されている。実際に、ロシアの活動の帰結としてこれら人々の言説が形成されたのか否かはわからない。ただ、そうなのかなと思わせる程度には説得的であった。
一方で、ロシアのウクライナ侵攻に対する今後の見通しであるとか、西側の一員としての 日本の行動のあり方はどうあるべきだとか、そういったことに関して知見を得ようとして本書を読めば、物足りなさを感じるだろう。
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