著者:田内 学
出版社:東洋経済新報社
発売日:2023年10月18日
お金は道具であり、お金自体に価値はない。こうした認識に立った道具としてのお金の取扱説明書が本書のコンセプトとなる。
コンセプト自体に違和感はない。ただ、具体的に書かれている内容に関しては「微妙」というのが私の正直な感想。書かれている内容それ自体は間違ってはいないと思う。けれども、それが必ずしも唯一の解釈というわけでもない。
例えば、お金を無人島で使うことはできない。だからお金自体に価値はない。本書ではそう主張する。それはその通り。一方で、千円札は街のお店で千円の価値のある商品と交換できる。その限りにおいて、そのお金は千円の価値を有する。私としてはそう思う。
本文中で登場する言葉の定義は定かでなく、曖昧模糊としたふわふわ感が漂う。厳密な定義をせずに曖昧だけれども分かり易い表現により読者の理解を得ることを優先させた。本書の読者層の想定如何ではあるが、そう考えるならそれはそれでありだとは思う。
著者はゴールドマンサックスでトレーディング業に従事した後、お金に関した道徳的な側面を世に広げる事業に勤しんでいる、そんな人である。おそらくゴールドマンサックス時代に経験した様々な思いを胸に、若い人々に対してお金に関する新しい認識を提示したい。そんな高い志と理想に燃えて本書を書いたのだろう。ただ、私が少し擦れた読者であったのだ。
中学生の優斗と外資系金融企業に勤める七海が登場し、ボスと称される謎の老人がその二人にお金の話をするという体裁で物語は進む。実は、七海はボスのかつて別れた妻の娘であった。ボスは病気で亡くなるのだが、その事実を自分の死後しかるべきタイミングで七海に伝えてほしい旨優斗に頼む。七海が結婚をし、愛する人ができたとわかった後、優斗はボスの遺言に沿い、その事実を伝える。ベタな展開ではあるが、本書で私が一番気に入った部分となった
本書の表題「きみのお金は誰のため」、著者の期待する答えは社会のためであり皆のためだと思うのだが、いかがだろうか。
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